捨てられた氷
台所のシンクをふと見ると、なぜか氷が二つほどある。
私が氷をシンクに捨てたのだろうか…?
ちょうど夕飯の支度やお風呂に入れたりと忙しくしていたので、特に気にも留めなかった。
それから2、3日経った。
また氷がいくつかシンクにころがっていた。
私が氷を出した記憶はない。
やはり、おかしい。
夏ならともかく、冬に氷を使う事はほとんどない。
不思議に思っていた。
そんなある時。
『ガラガラッ』と音が聞こえた。
見に行くと、
冷凍庫を開けて氷でガシャガシャと遊んでいる長男の姿が見えた。
そして次の瞬間、氷をすくって2個ほど
『カシャンッ』と、シンクに投げ入れた。
あ…!!!
その時、長男が氷をシンクに投げ入れていたことが分かった。
長男の仕業だろうと薄々気づいていたのだが、氷を出している現場を見たことがなかった。
そのため長男が本当に氷をシンクに投げ入れていたのかどうか分からなかったのだ。
相変わらず、氷をすくって遊んでいる。
「おおり!おおり!(訳 : 氷!氷!)」と、楽しそうである。
楽しそうなのは良いのだが、冬に冷凍庫を開けっ放しにされると部屋の中に冷気が流れ込んでくる。
ヒンヤリとした空気がますます寒さを感じさせる。
正直、辞めて欲しい。
私は「用が済んだら閉めて!寒いよ!」と、言った。
長男は氷で遊べて楽しかったのかニコニコしていた。
機嫌よくすぐに閉めてくれた。
よく考えたら、問題点は寒いだけでない。
冷凍庫を開けっ放しにされて冷凍庫の中の物が溶け出しても困る。
そこで、対策を考えることにした。
冷凍庫を開けている場面に遭遇した時に、「どうしたの?」と長男に聞いてみた。
すると、「おおり!おおり!(訳 :氷!氷!)」
と言われた。
長男が口を開けて氷を指差して食べたいということをアピールしている。
そこで、コップに氷を一個だけ入れて長男に渡す事にした。
私は、「冷たくてお腹壊すと大変だから、1個だけね!」と言う。
長男は「うん!」と返事を元気よくしてくれた。
長男は氷を口に頬張って、「つめた!つめた!(訳 : 冷たい!冷たい!)」
と、言いながらもニコニコと嬉しそうである。
その後、
2日間だけ氷ブームが続いた。
3日目には冷凍庫を開ける事がなくなった。
また、氷を出す事もなくなった。
長男の心は満たされたようである。
氷をばら撒きたかった訳ではなく、ただ単に氷に興味があっただけのようだった。
氷を無駄にされたり、冷凍庫を開けっ放しにされることがなくなって一安心である。
これからも、
氷を欲しがる時には「一つだけね」などと個数を約束して要望に応えたいと思った。
なんでもかんでも「ダメ!」と言うのは簡単だが、禁止事項が多すぎると執着心が酷くなってしまう事もある。
全てを我慢させようとするのではなく、出来る限り好奇心を満たしてあげたい。
どんどん成長していっても、興味を持ったことは出来るだけ経験させて学んでいって欲しいと思う。